香料が体内に入る3つの経路とは? 

 

一般的に「におい」成分である芳香化合物は、揮発性・脂溶性です。


芳香化合物の分子量は40〜300前後であり、その多くが100〜150前後と、比較的低分子のものが多いです。中でも、分子量の小さい物質の方が、分子量の大きい物質よりも揮発性が高くなる傾向にあります。
 
 
そして、こういった揮発性・脂溶性である低分子の芳香化合物は、体の中に入りやすいという特徴があります。その経路は「吸入・経口・経皮」の3つであり、その吸収割合は「吸入が80%・経口が十数%、経皮が数%とされているのです。
 
 
そして、これはアロマセラピーの観点からの話ですが、同じ薬理成分でも吸収経路によって作用が異なることが知られています。
例えば、白檀に含まれるαーサンタロール(分子量 220.35)は、吸入した場合は興奮作用、経皮吸収した場合は鎮静作用という正反対の作用を示します。
こういった意味でも、芳香化合物が体に入る経路とメカニズムを知ることが大切になるのです。
 
 
ここでは「芳香化合物」としてまとめて話を進めますが、食品添加物としての香料や日用品に含まれる合成香料だけではなく、アロマセラピーで用いられる精油、漢方で使われる生薬までもがこの「芳香化合物」の中に含まれています。
「意図せず吸収してしまうもの」と「意図的に吸収させるもの」があるということを念頭に読み進めていただけましたら幸いです。
 

 
 


 

1、吸入による吸収

 

吸入による吸収では、次のような3つの経路が存在します。
 
  • におい分子の電気信号として、大脳辺縁系・視床下部に届くルート
  • 鼻腔・気管支・肺組織に直接入り、体循環を経ずに直接働く作用
  • 血液中に溶解し、体循環を通して各臓器・器官に届くルート
 
 
呼吸によって体内に入り込む場合、「鼻腔→咽頭→咽喉→気管→気管支→肺」という経路をとって肺まで届きます。肺には、肺胞と呼ばれる小さな風船状の組織があり、ここで芳香化合物は肺胞上皮に接します。
この肺胞上皮の壁とその下に張り巡らされている毛細血管の壁はとても薄いため、肺胞上皮の細胞膜を通った芳香化合物は、毛細血管の中へ非常に溶け込みやすくなっています。
 
 
人間の1回の呼吸量はおよそ500mlです。そのうち150mlが気道に残るとすると、1回の呼吸で350mlが換気されることになります。これを1分間で12回だとすると1日では17,280回となり、その換気量は6,048リットルにもなります。
 
 
このような換気量の多さに加え、空気中に存在する揮発性物質の濃度がそれほど高くなくても、肺や粘膜からの吸収率はとても高くなるという実態があります。冒頭で述べた「吸入による吸収割合が80%」というものは、こういった理由があるのです。
 
 
 

 

1、合成物質の吸入

 
 
この「吸入による吸収」の80%のうち、4分の3を占めるのが室内に存在する揮発性物質だといわれます。
近年は、住宅の気密性が向上し、湿気だけでなく生活で生じるにおいも自然と外へ流れていくことが難しく、室内の空気がこもりやすくなってきました。
こういった事情により、消臭剤や芳香剤の需要が加速された一面もあります。
 
 
室内で使われる揮発性物質は、他にも殺虫剤・洗剤類・衣類の防虫剤・ヘアスプレー・制汗剤・化粧品など多岐に渡っており、建具や家具・建材から発せられる物質も合わせて、当然室内に滞留することになります。
 
 
これらはほとんどが合成香料や合成の揮発性物質です。これによる健康被害が知らぬ間に広がっていることは誰もが認識すべきことで、業界や行政の早急な対応も求められています。
 
 


 
2、毒性のある揮発性物質の侵入
 
 
毒性のある揮発性物質の分子は、脳脊髄液に溶け込んで脳に甚大なダメージを起こす場合があります。シンナー・アルコールや、麻薬・脱法ハーブなどといった揮発性物質による中毒が主な例です。
 
 
これらは、におい分子として嗅覚受容体に感知される経路とは別に、鼻腔と脳(嗅球)の間にある篩骨篩骨の穴を通って、分子が直接脳内に入り込みます。そして脳脊髄液に溶け込み、中枢神経を麻痺させるのです。
 
 
 
 

3、アロマセラピーにおける吸入

 

アロマセラピーで最も用いられている芳香浴では、こういった合成物質ではなく、100%天然成分の精油のみを使用します。精油といってもその品質はさまざまで、アロマセラピーではその精油の質が特に重要視されています。
 
 
また、同じにおいの合成香料と精油でも分子構造が違い、嗅球での「におい地図」が異なるため、脳内の活性化する部分も変わってきます。化学合成されたローズ香料と天然ローズ精油では、作用も効果も全く違うのはこういった機序から説明がつきます。
 
 
ただし、天然のものであっても精油の成分にはたいへん強い作用を持つものがあります。原液が直接触れることで皮膚トラブルを起こしたり、精油の作用により思った以上に体力を消耗したり、アレルギーの原因となる物質を含んでいたりもします。
使用には十分な知識が必要とされることは認識しなければいけません。
 


 

 

 

2、経口による吸収

 

呼吸や飲食物とともに消化管に入った芳香化合物は、食物と同様に消化の作用を受けます。
その過程で、胃や腸などの消化器官からも吸収され、体に作用します。
 
 
フランスやベルギーなど、メディカルアロマセラピーが医療として認められている国では、精油をキャリアオイルで希釈後、服用したり坐薬として投与したりといったことが行われています。
 
 
 
 

 

3、経皮による吸収

 

皮膚についた芳香化合物は、表皮の細胞や細胞間隙を通過して真皮に届きます。表皮の下の真皮には毛細血管が多数あり、芳香化合物はそこに溶け込んで、血液と共に全身をめぐることになります。
 
 
このとき、低分子量の芳香化合物ほど早く皮膚に浸透し、高分子の芳香化合物の浸透はそれよりも遅くなります。血液中に入った芳香化合物も同様で、分子量の大きさによって異なる速度で吸収されるのです。
 
 
精油をキャリアオイルで希釈し、それを塗布してマッサージをするアロマトリートメントでは、そのメカニズムを利用して有効成分を時間差で体内で働かせることもできます。
 
 
芳香浴では、精油をお湯に浮かべ全身浴・手浴・足浴を行うことにより、精油成分を皮膚と鼻の両方から吸収させることが出来ます。またアロマトリートメントは、投薬量を減らすことを目的とする部分もあり、終末期のガン患者の緩和ケアや、関節や筋肉のこわばりや痛みの緩和にも役立てられています。








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